2012.01.24 Tuesday
祈り
「やっぱり雪になったか」
深夜のバーでひとりごちた。
二階から見下ろす窓の下のアスファルトが、白い粒の重なりで見る見るうちに覆われていく。
割れたガラスのかわりに窓枠にあてがわれたビニールが、突風を受けて激しい音をたてる。
さすがにもうお客さんは来ないだろう。
残り少なくなったストーブの燃料を補充し、ほこったグラスをあらかた洗い直すと、他にやることがなくなってしまった私は、店のディスプレイ代わりに家から持ってきた本の中から、目についた一冊を手に取った。
サム・シェパードの「モーテル・クロニクルズ」。
ヴィム・ヴェンダースの映画「パリ・テキサス」の脚本を担当した、脚本家であり俳優でもある彼の散文集は、手に入れたのはずいぶん前だったが、タイミングが合わずになかなか最後まで読み切れなかった本だ。
ソファに腰掛け、硬い表紙を開いた。
気がつくと、スピーカーから流れていたピアノが止まっている。
テーブルの上のコーヒーが、すっかり冷めてしまっている。
雪の固まりが屋根の上に落ちた。
その音で気をそがれた私は、余白の上のゆらめく影にしおりをはさんだ。
あいかわらず、腹部の鈍痛は消えない。
私は目を閉じ、手を当て、それが何でもないことを祈った。
窓の向こうは真っ白い闇だ。

(昨夜の音楽)
Kaki King『Everybody loves you 』
Charles Mingus『The Clown』
Tim O'Brien『The Crossing』
Colleen and Paul 『Colleen and Paul』
Fred Neil『Bleecker & Macdougal』
Glenn Gould『The Complete Goldberg Variations 1955 & 1981』
踊ろうマチルダ『夜の支配者』
Lizz Light『Salt』




