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5/4 浅田弘幸×大森暁生トークライブについてのご案内

 

 

 

カフェソードフィッシュです。

こちらは下記イベントに参加ご希望の方へのご案内ページとなります。

 

 

 

 

20170426(追記)

会場で販売するコラボTシャツの価格を発表しました。

 

 

 

 

浅田弘幸×大森暁生コラボTシャツ

 

 

ボディカラー:BLACK, WHITE

ボディ:

スタンダード(肉厚、日本人向きの程よいシルエット)

       XS, S, M, L, XLの5サイズ

ライトオンス(薄手でやや細身、首ぐりが緩い仕様)

       S, M, L, XL の4サイズ

 

 

価格:¥6,000(税込)

 

 

 

 

 

 

20170420(追記)
トークライブ観覧希望者の受付は終了しました。
ご応募ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

浅田弘幸(漫画家)× 大森暁生(彫刻家)
トークライブ at D.B.Factory
花の咲く場所 -Flowers Always Bloom Somewhere-

 

 

 

 

 

 

 

 

やりたいことを仕事にして生きていくには?
人生の転機にどう向き合うのか?
彫刻家・大森暁生の工房、D.B.Factoryを会場に、
漫画家・浅田弘幸を迎えた異ジャンルクリエイター対談。

 

 

 

 

 

期日:2017年5月4日(祝・木)

 

会場:D.B.Factory
   東京都足立区千住宮元町31-18
   北千住駅より徒歩15分

 

出演:浅田弘幸(漫画家) 大森暁生(彫刻家)

 

開場:13:30 開演:14:00
終演:トーク終了は17:00を予定

        (それ以降、物販の時間を設けます)

 

料金:一般 3,500円(税込)1ドリンク付き
学生 3,000円(税込)1ドリンク付き
※来場時に学生証の提示をしていただきます。

 

清算:当日、会場にて

 

定員:50名

 

 

主催・問合:カフェソードフィッシュ

 

info@cafeswordfish.com

 

 

※お問い合わせの際は、上記のアドレスが受信できる設定をお願いします。

※このイベントに関しまして、会場へのお問い合わせはご遠慮ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

出演者プロフィール:

 

 

 

浅田弘幸 / HIROYUKI ASADA
漫画家。1968年神奈川県横浜市生まれ、鎌倉市在住。1986年に集英社月刊少年ジャンプでデビュー。
代表作に「眠兎」「蓮華」「I’ll」「テガミバチ」。アニメのキャラクター原案や、イラストレーターとしても活動中。
筋肉少女帯のCDジャケットや宮沢賢治作品、中原中也詩集の表紙など手掛けている。

https://twitter.com/asadercover

 

 

 

                                   Photo by Nojyo

 

 

大森暁生 / AKIO OHMORI

東京都出身 愛知県立芸術大学美術学部彫刻専攻卒業。
彫刻家 籔内佐斗司のアシスタントを経て独立。

国内外のギャラリー、百貨店、アートフェア、美術館等での個展や展示に加え、
多くのファッションブランドとのコラボレーションなど幅広く作品を発表。
フォトエッセイ+作品集「PLEASE DO DISTURB」(芸術新聞社)、
大森暁生作品集「月痕 つきあと」(マリア書房)を刊行。

akioohmori.com

 

 

 

      

                                ©️HIROYUKI ASADA, Cafe Swordfish

 

 

カフェソードフィッシュ / Cafe Swordfish
とある街の5街建てビルの屋上にあるという架空のカフェ、ソードフィッシュ。
その物語をモチーフに、様々なジャンルのクリエイターが創作活動を行う、コンテンツサイト&オンラインストア。

cafeswordfish.com

 

 

 

 

 


 

| NEWS | 16:58 | - | - | pookmark |
カフェソードフィッシュ リニューアルしました

 

 

 

カフェソードフィッシュのコンテンツサイトを新しくするにあたり、

漫画家の浅田弘幸さんに新しいロゴを描いていただきました。

 

 

 

 

今回のリニューアルを機に、より多くの方が日常的に訪れてくれるような、本当のカフェのようなサイトにしていこうという我々の思いを、シンプルながら人の体温が感じられる手書きの文字で表現してくださっています。

ありがとうございます。大事に使わせていただきます。

 

 

 

 

さて、そのサイト名の下に、今までになかった文章が入っているのはご覧いただけたでしょうか。

 

 

 

 

 

 

昨年開催された、浅田弘幸さんの画業30周年記念原画展のコラボレーションとして『テガミバチ』と並ぶ浅田さんの代表作のひとつ『I'll』(アイル)をモチーフとしたTシャツを企画させてもらっていた時のこと。

 

 

 

 

連載当時に販売されたTシャツの復刻はすでに決まっていたものの、

なかなかこんな機会はないので、ファンの方に喜んでもらえるように、

もう一型、新しいデザインでつくりたいと思っていました。

 

 

 


この『I'll』という作品。少年誌である月刊少年ジャンプに連載されていましたので、読者の多くは、当時まだ少年少女だったでしょう。

連載終了から時を経て開催される原画展。
会場で再び出会う作品に、大人になった彼らは何を思うのか。

 

 

 


『I'll』(アイル)の作中、主人公の立花茜が言った印象的なセリフがありました。

 

 

 

 

「花ひとつ咲いてねえ道なんて つまんなくて歩けねーぜっ」

 

 

 


花を咲かせるために、一心に走り続けるのも人生であれば、
道端に咲く花を愛でながら、自分のペースで歩くのも人生。

 

 

 

 

一度は枯れてしまっても、また違う場所で芽吹いてたり、

違う種類の花の美しさに気が付いたり。

 

 

 

 

人それぞれ、いろんな生き方があっていいんだよな。

 

 

 


ファンの人たちも、みんなそれぞれ、いろんなことがあったはず。
思い描いていたものとは違う未来を生きている人もいるだろう。

 

 

 

 

そんな想像をしているうちに、ある文章と景色が浮かび上がりました。

 

 

 

 

「花はいつもどこかで咲いている」

 

 

 


ああ、そうだな。
そうであってほしいな。

 

 

 

 

もともとTシャツの企画であったので、
デザイン的に英文にしてみようとあれこれと考えて、
これだ! と思ったのが、この文章。

 

 

 


FLOWERS ALWAYS BLOOM SOMEWHERE.

 

 

 

 

 

 

無事、Tシャツとして発売され、企画としては一旦終了したものの、
ずっと頭の中にあったこの言葉を
イメージの大元である浅田さんに相談し、
この度ソードフィッシュのサイトに使わせていただくことになりました。
そればかりか、なんとご本人の文字で書いていただけたという。
いやもう、いつもお世話になってばっかりで。ありがとうございます。

 

 

 


願わくば、これを読んでくれた皆さんにとっても、
何か感じられるものになればと思います。

 

 

 

 

 

 


改めまして、カフェソードフィッシュです。

新しくなりましたこのサイト。

まだまだこれからのところも多々ありますが、

様々な形で生きている人たちを繋ぐ場所として、自分たちなりに活動してまいります。
今後ともご愛顧のほど、よろしくお願いいたします。

 

代表・大塚茂之

 

 

 

 

 

 

 

| JOURNAL | 19:02 | - | - | pookmark |
ア・テイスト・オブ・ブラッド -A Taste Of Blood-

 

 


深夜の車道の真ん中に黒い犬の死体が転がっていて、何台もの車がその上を通り過ぎていった。飛び出た眼球、ちぎれた舌、つぶれた胴から飛び出した濁った赤と緑の内臓。それらは強烈なヘッドライトによって姿を現し、そして、また闇に消えた。

 

 


車道沿いに立つ8階建てのビルの1室、明かりの消えた暗い部屋。

開け放った窓の枠にもたれかかった男が、アスファルトの上で次第にすり減っていく肉のかたまりを見下ろしている。

上半身は裸、氷河のような青白い肌に、浮き出たあばら。はだしの左足を窓の外にぶらつかせ、洗濯で色の落ちきったデニムは前のボタンが全部外れていて、へそからつながった陰毛が夜の風になびいている。

赤く腫れたまぶた、青みがかったシルバーグレイの瞳、寝グセで跳ね上がった墨色の髪、こけた頬に無精髭をはり付け、薄い口唇の端に火のない煙草。

 

 

 

男の体ごしに見える部屋の奥にはアップライトのピアノがほこりをかぶっていて、その上に置いてあるアンテナの曲がった古いラジオが、身悶えんばかりのアルト・サックスの音を響かせ、それと重なるように、車が犬の躯に乗り上げる音が、リズミカルに、しかし、ビルの反響で遅れて届いている。

 

 


ふいに部屋の奥で扉が開いて、強い光のナイフが室内の青い闇を切り取った。その角度の中にあった男は、わずかに目を細める。
狭まった視界に入ってきたのは、地上でもっとも美しい曲線である女の脚。熟れきった果実のような匂いとともにバスルームの湯気をまとい、厚手のタオルで濡れた髪と体を包んだ白い肌の美女。彼女は今にも唾を吐きそうな表情で言った。

 

 

 

「ああ、もう、やっと帰ったわ。毎回毎回、あの男、しつこいったら。まあ、それでも金離れのいい客だから、ネズミみたいな息のにおいだって我慢するけど」
自分を買った客を嘲笑する下卑た表情のなかにも、彼女はある種の澄んだ美しさを漂わせる。深い湖の底をのぞいたようなグリーンの瞳。雪山の頂を思わせる高い鼻梁。ただ、パパイヤのような肉感たっぷりの口唇を押し開くと二本の前歯の間にすき間があって、それは成熟した大人の女に残された唯一の幼さだった。

 

 


女は男の口から煙草を取り上げて、それをくわえた。
「どうしたの? 夜にしては音が大きすぎるわ。窓も開けたままじゃない」
女がラジオのツマミに手を伸ばそうとすると、男はその細い手首をつかんで、ぐいと引き寄せ、あげかけた声を口唇でふさいだ。床に転がる煙草。

 

 

 

頭に巻いたタオルが解け、女の濡れた髪が顔の半分と細い首から背中までを滑り降りた。

男の荒々しい求め方に、仕方なく応えていた女だったが、男の手がバスタオルの裾をめくり、まだ乾ききっていない股間に触れようとすると、男の体を、どん、と突き離した。

 

 


「やめてよ」
女はタオルの裾を押さえながら、後ろ歩きで距離を取った。男はそれと歩幅を合わせるように、ゆっくりとまた女に近づいた。まるで覚えたてのステップを確かめるビギナーのように。
女の背中が壁に触れた。男は女の目を見つめながら、その腰をやさしく抱き寄せた。
耳元で男が囁く。
「よかったか」
女は身を固くする。男は両手で女の腰をがっしりと抱え込む。
「しつこくされて、よかったのか」

 

 


女は、何を言ってるの、と言いたげに、グリーンの目をぐるりと回す。

「いいえ。何も感じなかったわ。私は何も感じない。そんなこと、あなただってよく知っているでしょう?」
男の手が尻の肉を激しく掴んだ。そしてその奥の粘膜に、ざらついた指を這わす。女は裂けるような痛みを感じて身をよじった。
「い、いたい……」
「なあ、カミラ。明日は火曜日だ。そうだ、パンケーキを食べなきゃな」
「聴いてよ、チコ。私、ついさっきまで仕事してたの。そう、別の男のを何時間もくわえこんでたの。悪いけどそんな気になれないわ」
「バターをたっぷり、それに新鮮なブルーベリーとバナナも添えて」
男の指が女の谷間を強引に開こうとする。
「ちょっと! あんた、やっぱりイカレてるわ! 自分の女を売っといて、そのすぐ後に自分もファックしようっていうの!」

 

 


女は息を飲んだ。

女の裂け目に何かがはさまっていた。冷たい感触。ごく薄い何か。

刃物?

耳元にガサついた口唇をあて、男が言う。
「うるさいよ、ビッチ。俺が欲しいのか、欲しくないのか、どっちなんだ」
股間の異物がわずかに動いた。チクリとした痛み。粘膜に貼り付いた暴発寸前の狂気。

女はあきらめ、体の力を抜いた。

 

 


アルト・サックスの絶叫は続く。弾け飛ぶ犬の頭蓋骨。
「飲み物はさ、あたためたミルクに蜂蜜をいれてさ」
男の痩せた肩越し、女は壁に刺さったナイフの刃を眺め続けた。

 

(未完)

 

 

 

 

 

Thanks For Inspiration : JOE HENRY 『Scar』(2001)

 

 

 

 

 

| ショート・ストーリーズ | 01:23 | - | - | pookmark |
我らをゆるしたまえ -Forgive Us-

 

 

 


(1)

 

その日は土曜日だったが、マキシンはこれがニックと過ごす最後の週末になるだろうと思っていた。
二人ともこれからのことを思うと気が滅入るのだが、やけっぱちになっているニックと違い、どちらかというと楽観主義であるマキシンは、差し当たってこの後どうしようかと考えを巡らせていた。

 

 


「そうだわ、ニック。天気もいいことだし、車を借りて海まで行ってみない? ほら、今年になってまだ行ってなかったでしょう?」
マキシンがキッチンから声をかけたとき、ニックは洗面台で手を洗っていた。皮膚が赤みを帯びるまで、何度も何度も石けんでこすっていた。
「なに言ってるんだよ。今、そんな場合じゃないだろ」

「だって、どっちにしろ、もうここにはいられないじゃない。どうせだったら気分がいいところへ行きたいわ。そうだ、ロード・アイランドはどう? 毎年、ニューポートでジャズ・フェスティバルをやってるはずよ。今年はサッチモが出るとかラジオで言ってたわ」
「サッチモ? ルイ・アームストロング?」
洗面所からニックが顔をのぞかせた。

 

 


「そう、ルイ・アームストロング。好きでしょ、ニック」
「好きだね」
タオルで手を拭きながら、ニックがキッチンに来た。
「観たいでしょ」
「観たい」
「決まりね」
マキシンが笑った。ニックも笑った。

 

 


「じゃあ、俺はおばさんにフォードのカギを借りてくるから、持っていく着替えを二階のクローゼットでみつくろっておいてくれよ」
「フォードじゃなくて、キャディにしなさいよ。あのお尻の大きな黄色のキャデラック、すてきだわ」
「おいおい、貸してくれないよ。おじさんが新車で買ったばかりなんだぜ。まあ、訊くだけ訊いてみるか。そうだ。よかったらついでに旅行用のトランクをひとつ出しといてくれ」

 

 


玄関の扉が閉まる音がすると、マキシンはテーブルに置いてあったタバコを口にくわえた。

マッチを擦って火を点けようとしたが、手が震えていてうまく点けられなかった。
着替えと、トランク。

そうね、トランクは確かに必要だわ。
マキシンは階段をのぼって寝室に入り、クローゼットの扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

(2)

 

二人はキャデラックの屋根をオープンにして、島へ向かう海上道路を走った。

空の青と、海の蒼の境目。走る風が照りつける太陽の熱を心地よく冷ましてくれた。
白地に赤いドット柄のワンピースを着たマキシンが、助手席で帽子のつばを押さえながら言った。
「ニック、ソーダがあるわよ。飲む?」
スポーツシャツの袖をまくり上げ、深いグリーンのサングラスをかけたニック。
「いや、ビールがいいな。開けてくれるかい?」
ニックがラジオのつまみを回すと、陽気なブラスのフレーズが流れ出した。ペレス・プラード楽団の最新ヒット「パトリシア」だ。
「見て、吊り橋よ。あんなところを通るのね。船が下をくぐっていくわ。すごい」

 

 


海上道路の終わりが近づき、港が見えてきた。ひしめくようにヨットが並び、その白い帆が心躍る夏の日差しを反射させていた。
「ほら、あそこの船から子供が手を振ってるわ。なんてかわいい坊やなの」
ボードに書かれたウェルカムという文字を横目に、トールロードを抜けて上陸、幹線に合流し、いかにもリゾート地らしい豪邸が建ち並ぶ大通りをぬけて、さっき海から見たハーバーを目指す。
「見て、あの標識。フェアウェル・ストリートですって。おっかしいわ! 今、来たばかりなのに “さよなら” だなんてね」

 

 


風にゆれるヨットたちを見つけ、ハーバーを利用する客用の駐車場に、黄色いキャデラックを停めた。
ニックが車から身を乗り出し、ヨットからロープを下ろしている頭髪の薄い男にむかって声をかけた。
「やあ。いい天気だね」

 

 


声に気がついた男が顔をあげて応える。真っ赤に焼けた頭皮の上で、わずかに残った白い髪がゆれた。
「まったくだ。ヨット日和とは、こういう日のことをいうのだな。何か用かね?」
「今、着いたばかりなんだ。いいホテルを知らないか? フェスティバルの会場に近いといいんだが」
「ふむ、会場はベルコート・キャッスルってところなんだが、ここを引き返して右へ曲がると、ベルヴィル・ストリートへ出るから、そこを道なりに行けばすぐ見つかる。ただ、会場の近くはどこも多いだろうから、逆に、会場とは反対方向の宿を探したほうがいいだろうな。まあ、もっと詳しく教えてやれたらいいんだが、私たちはあいにくホテルではなくて、サマーハウスで過ごしているものでね」
「こりゃどうも、ご親切に」
それを聞き終わるか終わらないかのうちに、ニックがまたエンジンをかけた。
マキシンが口をはさんだ。
「お礼にあなた、ソーダなんていかが?」
「結構だ。ありがとう。よい一日を」

 

 


ハーバーの男の言ったとおり、会場付近の宿は満室を理由に断られた。知らない道を車でうろつき回り、古ぼけた小さな宿にやっとチェックインできた。

隣接のレストランでの遅い昼食をとり、デザートのライチ・シャーベットですっかり上機嫌になった二人。
それから腹ごなしに通りを探索した。ビーチは思ったより遠かったので、海が見える前に引き返した。

 

 

 

部屋に戻った二人は抱き合ってセックスをした。
バスルームから出てきたばかりの頬を赤くしたマキシンが、そろそろ会場へ行こうと誘ったが、ベッドの上のニックは運転で疲れたと言い、そう言えば二人とも前日は一睡もしていなかったので、そのまま夕方までひと眠りすることになった。
「急ぐことはないだろう。サッチモの出番はもっと遅いはずだ」

 

 


ニックが目を覚ますと、夕方どころか、窓の外は真っ暗な闇に塗りつぶされていた。
起き抜けに、ニックがマキシンに怒鳴った。
「どうして起こさないんだ!」

 

 


濃いブルーのインナー姿でベッドに腰掛け、雑誌を眺めていたマキシンの眉が吊り上がった。
「起こしたわよ。何度も声をかけたけど起きなかったの! 悪いのは自分じゃない。どうして私が怒られるのよ!」
舌うちするニック。
「いいか。相手が起きないんだったら、起こしたとは言わない。起こす約束をしたときは、相手が起きるまで、揺すってでも、叩いてでも起こすんだ!」

 

 

 

「知らないわよ、そんなの! 私だって、ほんとは出かけたかったわよ! でも、あなたすごく疲れてるみたいだったから、がまんして寝かせておいてあげたのに! あなたの奥さんだったら、こういうときどうしてたの? やさしく起こしてくれたの? ママが子供を起こすときみたいに? さあ、ベイビー、もう朝でちゅよ。おっきしまちょうね。かわいい、かわいい、私のベイビー!」
ニックが拳を振り上げた。
マキシンは動じず、ニックを見据えた。
置き時計の針の音に混じって、雨粒が窓ガラスをなでる音が聞こえた。

 

 

 

ニックの腕がだらりと下がった。

うつむいた細い顔に、照明が濃いオレンジ色の影をつける。
「……あいつのことは言うな」
マキシンはベッドから飛び降りると、電気スタンドをつかんで床に叩きつけた。

 

 

 

 

 

 

(3)


1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバル。
夜は深まり、すでに日付は日曜に変わっていた。

会場は途中から降り出した雨のなか、興奮しきった観客たちが一心にステージを見つめていた。

 

 


出演者中、最後に登場したゴスペルの女王、マヘリア・ジャクソンは、たったのひと声を発しただけで、すべての人々の心をつかんだ。母性の固まりのようなふくよかな体で、ステップを踏み、手を打ち鳴らし、その迷いのないまっすぐな声で、神への感謝を魂のかぎり歌い上げるマヘリア。

 

 


「ゴスペルソングは希望の歌です。人はゴスペルを歌うことで、苦しみや悲しみを癒すことができるのです」

 

 


降り止まぬ雨、それにも関わらず何度も巻き起こる熱狂的なアンコールの拍手に、再三再四ステージに戻された彼女は、少女のようなはにかみで応えた。
「なんだか、スターにでもなった気分だわ」

 

 


星の瞬きのようなピアノのイントロに導かれて歌い出した祈りの歌。それはクライマックスにむけて力強さを増し、人々を未来に導く神々しい光のようだった。

 

 


 我らに罪をおかす者を、我らがゆるすごとく
 我らの罪をもゆるしたまえ


 我らをこころみにあわせず
 悪より救い出したまえ


 AMEN

 

 

 

 

マキシンとニックは手をつなぎ、会場の一番後ろでその光景を見ていた。

まるで乗り遅れた船の出航を見送るように、二人はそれが見えなくなるまで、ずっとそこで立ちすくんでいた。

 

 

 


会場からホテルに戻ったマキシンとニックは、濡れた服を脱ぎ、バスタオルをかぶって、ベッドの縁に並んで腰掛けていた。
マキシンが口を開いた。
「彼女の歌、すばらしかったわね」
「ああ」
「私たちも、ゆるされると思う?」
「…それは」

 

 


二人の目が同じものを見ていた。

ベッドの脇に置かれている、ずっしりと重い革のトランク。人ひとりがはいるほどの大型サイズ。

ヒザを抱えた恰好で冷たくなっている、見えないはずの中身が、二人にはまるで見えているかのようだった。
マキシンが笑った。
「サッチモ、見られなかったわね」

ニックの腕が、マキシンの冷たい肩を抱き寄せた。

 

 

 

 

 

(4)


朝が来た。
ホテルの駐車場で、制服を着た二人の男が黄色いキャデラックを覗き込んでいた。彼らはうなずくと、フロントに廻って支配人を呼んだ。
部屋のドアがノックされた。中からの応えはなかった。

支配人が合鍵を使ってドアを開けた。

 

 


セミが鳴いていた。

朝とはいえ、窓から差し込む光はもう、強い夏の日差しだったのだ。

 

 

 

 

 

 

Thanks For Inspiration, MAHALIA JACKSON
『NEW PORT 1958』(1986)
映画「JAZZ ON A SUMMER'S DAY  (邦題 真夏の夜のジャズ)」(1960)

 

 

| ショート・ストーリーズ | 01:10 | - | - | pookmark |
口唇の荒れた女 -Her Chapped lips-

 

 


仕事帰りの乗客のため息で満たされた夜のバスは、水槽の中にも似た青い光が沈んでいた。

窓ガラスの向こうの暗闇に、まばらな電球で囲まれたガソリンスタンドの看板が小さく揺れていた。

 

 


私のとなりに座る女からは濃密な夜の匂いがした。

光沢のある黒い肌、長い黒髪。大きな目をさらに誇張する原色のシャドー、張ったほお骨に、ラメのはいったオレンジ色のチーク。ノースリーブのピンクのシャツの胸元がVの字に開き、胸の谷間があられもなく見えている。

 

 


「よくある話なんだけどね」

窓に映った女の横顔が、私が訊ねもしないことを話し出した。

 

 


「私がまだ小さい頃、ママが新しいパパと結婚したの。それまでずっとママとふたり暮らしだったから、最初はやっぱり、とまどったんだけど。でも、パパはすごく優しい人で、私はすぐにパパが大好きになった。毎朝、私がふたりにコーヒーをいれてあげて、日曜日には3人でよく釣りに行ったわ」

 

 


バスが停車し、前の席の若い男女が降りた。

乗り込んでくる客の姿はいない。

 

 


「私が12歳になったばかりの、ある午後のことよ。その日はイースターでもないのに、パパが家のあちこちに卵を隠したの。殻にとてもすてきな装飾がしてあってね、私、そういう飾りものも宝探しも大好きだったから、玄関、リビング、階段、クローゼット、見つけるたびに飛び上がって喜んだわ。でも、最後にパパとママのベッドルームでまくらの下にあった卵を見つけたとき、いつのまにかそこにいたパパの手が、私の手を包んだの。とても大きな手だった。私は驚いたけれど、いやじゃなかった。それが私たちの最初だった」

 

 


通路を挟んだ席の痩せた老人が、目をつぶったまま小さく十字を切った。
窓の外では、カーブにそって並んだモーテルの看板がゆっくりと近づき、そして過ぎ去っていく。

 

 


「それから私は、ママが出かけるのが待ち遠しくなった。二人きりでパパに愛してもらえたから。でも、ママは気がついていたの。ある日の朝、グラスに注いだミルクを床に落としたあと、私にこう言ったわ。

『いったい、自分が何をしているのか、わかってるの? あなたたちは男同士じゃないの』

 

 


「その頃にはもう、それがどういうことなのか、自分でもわかっていたわ。

ええ、わかっていたけど、だからって、どうしろっていうの?」

 

 

 

「結局、ママはパパと別れて、私たち二人は遠くに引っ越したわ。

それからママは私を育てるために、昼も夜も働いた。毎日毎日、同じ服を着て早朝から出かけ、日付が変わるくらいの時間に、しわだらけの疲れた顔で戻ってくるの。肌は乾ききって、いつも口唇がひび割れてたわ。お金がなくて、まともな食事がとれなかったの。私が家を出るまで、ずっとそうだった」

 

 

 

バス停が近づき、スピードが落ちる。

 

 

 

「…でもね、…でも、私は」

 

 

 

私はトランクを抱えて席を立った。

窓に映った彼女は、両手で顔を覆っていた。

 

 


「……ママ…」

 

 

 

 


家に着くと私は、廊下の灯りをつけ、帽子を脱いで壁にかけた。

洗面所に行き、顔を洗って、口をゆすいだ。

階段を上り、自分の部屋に行く前に、寝室をのぞいてみる。

 

 


母は眠っていた。抜けた白髪だらけのまくらに青い顔の半分を沈め、喉に何かがひっかかったような不規則な呼吸をしている。部屋に染み込んだ、汗と病いと埃のにおい。

私は中に入り、ベッドの脇の椅子に座った。額に手をあてると、その湿った熱が伝わってくる。

眠っているときでさえ、母は苦痛に顔を歪めていた。

彼女の、口唇のしわにそって固まった細い血の線を、指でなぞった。

 

 


私は自室に戻ってドアを閉めた。

トランクを開け、中から油紙の包みを取り出す。

持ったことのない重みで手に汗がにじんだ。

 

 

 

長年の病いに母は疲れきっていた。

私もそうだった。私たちはこの苦しみから解放されたかった。

そのためにわずかな蓄えをすべて注ぎ込んで、この道具を手にいれた。

 

 


ただ、その日は今日ではなかった。

明日はどうだかわからないが、今日は、その日ではなかったのだ。

 

 


包みを机の引き出しの奥にしまい、鍵をかけた。
カーテンの向こうから、風がガラスを叩く音が聞こえた。
私は机にノートを広げてペンを握り、何を書くわけでもなく、次第に強まっていくその音に、ずっと耳を傾けていた。

 

 

 

 

 

Thanks For Inspiration :  BRIAN BLADE & THE FELLOWSHIP BAND『Season Of Change』(2008)

 

 

 

 

 

| ショート・ストーリーズ | 02:23 | - | - | pookmark |
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