CALENDAR
S M T W T F S
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< June 2016 >>
CATEGORIES
ARCHIVES
ZVON COFFEE

 

 

 

 

ZVON COFFEE

 

世界で約5%しか流通していない最高品質のスペシャルティコーヒー。

ご注文ごとに最適の焙煎を施してお届けしています。

 

 

実はすごいのです。ジヴォン。

 

 

Who is drinking ZVON?

 

 

 

 

| JOURNAL | 12:35 | - | - | pookmark |
旅人たち

 

 

 

郵便受けをのぞくと、今日もアニーからの手紙が届いていた。

夫あての手紙と一緒に家に持ち帰り、封を開けて、三つに折られた便せんを開いた。

中にはうすい紫の小さな押し花がはさんであった。

彼女はまた私の知らない街を訪れているらしい。

 

 

 

学生時代からの親友、アニーからの手紙を、私はこの数年間ずっと楽しみにしていた。

生まれ育ったこの街から出たことのない私は、主婦としての変わらない毎日を過ごしながら、度々届くアニーの手紙を読むことで、彼女と一緒の旅を夢想していた。

 

 

 

 

 丘一面に咲き誇っている菜の花。

 

 

 霧のような雨が降りそそぐ古都の城。

 

 

 羊をつれて歩く子供たち。

 

 

 どこよりも月が近くに見える峠。

 

 

 裏路地で見つけたお店のスパイシーなスープ。

 

 

 草原を横断する長い貨物列車。

 

 

 雪に隠された切ない恋。

 

 

 大聖堂の天井までを埋め尽くす、色とりどりのステンドグラス。

 

 

 

 

まだ見ぬ街への期待に胸を踊らせ、興奮気味のアニーのとなりを、私は微笑みながら共に歩く。

見上げた空は、果てなく広がっていく。

 

 

 

 

 

 

玄関先から夫と子供たちが帰ってくる声がして、私は旅のドアそっと閉めた。

 

 

 

子供たちの泥のついた服を脱がして洗濯かごに入れ、

はしゃぎ声の上からあたたかなシャワーをかける。

夫が子供たちの体を拭いてくれている間に、着替えの清潔なシャツと靴下を棚に置き、シチューの鍋に火をいれる。

 

 

 

家族そろってテーブルを囲んでの夕食。

子供たちは捕まえ損なったリスの話を聞かせてくれ、

私はその間もスプーンにニンジンを乗せて、彼らの口に運ぶ。

夫は日に一杯だけのビールを、心ゆくまで楽しんでいる。

 

 

 

子供たちが寝静まったあと、夫と、日々の生活で気になっていることや、うまくいかないことを語り合う。

たまに声を荒げたりもするが、ふたりは必ず笑顔でおやすみを言う。

次の日の朝、また笑顔でおはようを言うために。

 

 

 

 

 

 

迎えのバスが来て子供たちは学校へ行き、夫も仕事に出かけた。

私は朝食の後片付けを済ませ、洗いあがった洗濯ものを抱えて庭に出た。

 

 

 

裏返ったシャツの袖を引っ張り出しながら、ふと家の外を眺めると、

我が家の郵便受けの前にふたりの母子が立っていた。

長い髪を後ろで結んだ母親が、小さな娘の手を握っている。

 

 

 

アニーだった。

彼女はまた手紙を届けてくれたようだ。

そしてそれには、昨日の旅の続きが書かれている。

 

 

 

私はアニーに手を振った。

彼女も私に手を振った。

娘に腕を引っ張られたアニーは笑いながら、そのまま家の前を通り過ぎて行った。

シングルマザーの彼女は、これから娘をあずけて仕事へ行くところだ。

 

 

 

私たちは母としての人生を歩みながら、同時に旅の空の下を歩いている。

それはなんと贅沢なことだろう。

 

 

 

でもね、アニー。子供たちの手が離れたら、いつか本当の旅行に行きましょうね。

それまで私たち、がんばらなくちゃ。

 

 

 

私は真っ白になったシャツを、パン、と伸ばし、

彼女と私が歩く青い空にかざした。

 

 

 

 

 

| ショート・ストーリーズ | 04:17 | - | - | pookmark |
浴槽

 

 

 

昨日、本を読んだの。

女は、くわえ煙草でそう言った。

 

 

 

 

本の中で男が言うの。

この世のすべては実体のないもの、

イリュージョンなんだって。

 

 

 

 

パイプ仕立てのベッドの上、

壁を背にしてヒザを抱えている彼女の足元には、

白い陶器の灰皿があり、それは底が見えないほどの吸い殻で満たされている。

 

 

 

 

女は、火を点けて間もない長い煙草を揉み消し、

すぐにまた新しい煙草に火を点ける。

 

 

 

 

傍らのストーブには、かけられて間もない薬缶がある。

フタの下の水面は穏やかで、まだ、わずかほどの泡立ちもない。

 

 

 

 

彼女は宙を見つめたまま、無表情で話し続ける。

 

 

 

 

貴方というイメージは、貴方が望んだ形で現れ、

私と言うイメージは、私の望んだ形で現れる。

 

 

 

 

今まで起こったことのすべては、良い結果であれ、悪い結果であれ、

貴方や私自身の、そのイメージによって生み出されたものなんだって。

 

 

 

 

だとしたら、私たちって相当、

ネガティブだわ。

 

 

 

 

女は笑う。

 

 

 

 

 

薬缶の口からかすかな煙が立ち昇る。フタの内側は徐々に水滴がつき始める。

 

 

 

 

こうやって話しているこの会話も本当は、

どこかの誰かのイメージの中なのかも知れないわね。

 

 

 

 

いっそ、そうだといいのだけど。

 

 

 

 

 

女は黙る。煙草を消す。そして、また火を点ける。

 

 

 

 

 

漂う紫煙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

女が何かに気づく。

 

 

 

 

時計を見ると、針が5を指している。

 

 

 

 

貴方、もう時間— 

 

 

 

 

女は振り向く。

しかし、そこに、語りかけていたはずの体温はない。

さっき彼女自身が締めたドアだけが、そこにある。

 

 

 

 

女はうつむく。

 

 

 

 

薬缶がごぼごぼと激しい音を立てている。

フタを押し上げ、隙間から噴きこぼれた蒸気が、一瞬にして天に還っていく。

 

 

 

 

煙草を消す。

 

 

 

 

ベッドから立つ。こぼれる灰。汚れるシーツ。

 

 

 

 

ストーブから薬缶を降ろす。音が止む。

 

 

 

 

窓に近づく。

水滴で張り付いたカーテンを開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外は、湖。

輪郭も色彩もあいまいな風景。

 

 

 

 

彼女の視線の先、遥か向こうの穏やかな水面に、

何かが引っかかったように浮き沈みしている。

不自然で、小さな黒い影。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閉じられたカーテン。

ベッドでヒザを抱える女。

 

 

 

 

壁の向こうから、

かすかに、浴槽に水が張られる音が聞こえる。

 

 

 

 

女はライターを探し、煙草をくわえ、火を点けようとして、

 

 

 

 

 

やめた。

 

 

 

 

 

 

 

| ショート・ストーリーズ | 03:44 | - | - | pookmark |
ジズス(7)

 

 

生い茂る若葉は、差し込む日の光を透かして輝いていた。

その枝と枝の間に張られた小さなクモの巣に、丸い水滴が転がっている。

美しい夏の午後。

 

 

 

幼い私たちは、自分の身の丈ほどの生い茂った草木をかき分けて歩いている。

私は彼女の手をとって歩く。息が荒い。

赤いリボンを結んだ麦わら帽子と、白い麻のワンピース。

ハンカチで汗を拭いてやり、大丈夫かいと問う。

彼女は声も無く、ただ頷く。

 

 

 

短い夏を楽しむために、ヘレナと計画していた森へのピクニック。

反対していた大人を説得してくれたのは、引率をかってでた兄だった。

今なら親たちの心配がわかった。この遠い道のり、ふたりだけだったらどうなっていただろう。

 

 

 

先に進んでいた兄が立ち止まっていて、手招きをするのが見えた。

やっとのことで追いつき、ふたりで兄の腕の下をくぐる。

 

 

 

そこに湖があった。空の色を映し、見事なまでに青い水面が、風を受けてきらめいていた。

驚きの声をあげた、ヘレナの表情もまた。

 

 

 

ヘレナの父親が持たせてくれた干葡萄パン。兄がナイフで切り分けたハム。

瓶詰めのピクルスと、みんなで摘んだクロスグリの実。

湖畔でとった昼食はそれまでの人生で、いや、私の人生において最高の食事だった。

 

 

 

釣り針を用意している兄の傍らで、お腹いっぱいの私たちは横になる。

木陰に吹く風が心地いい。

ヘレナの寝息。

魚がはねる音。

このままここで暮らしたいな、と、まぶたを閉じながら私は思う。

 

 

 

 

 

 

 

彼女はステージの上にいた。

 

 

 

派手な化粧を施され、髪を巻いている。

 

 

 

丈の短い天鵞絨のローブ。

素足に、かかとの高い靴。

 

 

 

照明があたる。

 

 

 

そばにいた男がローブをはぎ取る。

 

 

 

何もまとっていない肌が、大勢の男たちに晒される。

 

 

 

髪を掴まれ、彼女は顔をあげさせられる。

 

 

 

下卑た口笛が飛ぶ。

 

 

 

腕をとられ、その場で後ろをむかされる。

 

 

 

待ち望む視線。

 

 

 

開かれる脚。

 

 

 

 

 

 

耐えられない。とても耐えられなかった。

 

 

 

大柄な男たちに取り押さえられ、這いつくばった床に歯を立てながら、

私は落札を告げるハンマーの音を聴いた。

 

 

 

 

 

ジズス 目次

 

 


 

| ショート・ストーリーズ | 19:42 | - | - | pookmark |
ジズス 目次

 

 

ジズス(1)



ジズス(2)



ジズス(3)



ジズス(4)

 


ジズス(5)

 


ジズス(6)

 

 

ジズス(7)

 

 

 

| ショート・ストーリーズ | 13:01 | - | - | pookmark |
| 1/158PAGES | >>